top of page

人材育成の優先順位はどう決める?考え方と方法

“階層別研修の繰り返し”を抜け出す、事業に効く育成テーマの選び方

人材育成は、「全員にまんべんなく研修する」のではなく、「事業に直結する3つの育成テーマ」に絞って優先順位をつけるべきです。結論として、事業に効くスキル・今“詰まっている”マネジメント層・離職リスクの高い層、この3つから順に育成テーマを決めると、投資対効果がはっきりします。

【この記事のポイント】

要点1|「結局、毎年同じ階層別研修」で終わっているケースが多い

正直なところ、「人材育成が大事なのは分かっているのに、結局“毎年同じ階層別研修”で終わっている」という話は、本当に多いです。年度末に慌てて研修会社のカタログを開き、メールボックスには「研修参加のご案内」が並ぶけれど、現場の忙しさに押されて、受講後の変化が分からないまま時間だけが過ぎる。

要点2|“万能薬”を探そうとして、目的が曖昧なまま進めてしまう

実は、人材育成の優先順位が決まらない理由の多くは、「育成の目的」と「誰に何を求めるか」が曖昧なまま、“万能薬”のような研修を探してしまうからです。事業のボトルネックなのか、マネジメントの質なのか、離職リスクなのか——どこに効かせたいのかを決めずに育成計画を組んでも、現場は動きません。

要点3|“事業から逆算”“役割別に見る”“今一番痛いところに集中”の3視点

失敗しないためには、事業戦略から“必要な力”を逆算する・階層別ではなく“役割別”に見る・「今、最も痛みが大きいポイント」に1年集中する、この3つを意識して優先順位をつけることが重要です。

この記事の結論

結論1|“事業のボトルネック”と“組織の痛み”から逆算して3つに絞る

一言で言うと「人材育成の優先順位は、“事業のボトルネック”と“組織の痛み”から逆算して、やることを3つまでに絞り込むこと」です。

結論2|「誰を育てるか」より先に「何のために育てるか」を言語化する

最も重要なのは、「誰を育てたいか」より前に、「何のために育てるのか(売上・利益・定着・生産性など)」を言語化し、その目的に紐づく役割(例:現場リーダー・次世代マネージャー・専門職)ごとにテーマを決めることです。

結論3|「今期はこれに集中」と決め、“やらない育成”も意識的に手放す

失敗しないためには、「全社員対象の大きな育成プラン」をいきなり描くのではなく、「今期はこの層・このテーマに集中する」と決め、その分“やらない育成”を意識的に手放す必要があります。

なぜ人材育成の優先順位が決まらないのか

原因1|「育成の目的」が“いい話”レベルで止まっている

よくある会議の光景です。

  • 経営:「これからは人材が資産です。人材育成に力を入れましょう。」

  • 人事:「はい。では今年も階層別研修を企画していきます。」

  • 現場:「正直なところ、また忙しい時期に研修が増えるのか……という感じです。」

ホワイトボードには、こんな言葉が並びます。

  • 次世代リーダー育成

  • DX人材育成

  • マネジメント力の強化

  • 若手の底上げ

どれも間違っていません。 ただ、「何のために」「いつまでに」「どの指標を変えたいのか」がないまま、「とりあえず研修」という発想に流れがちです。

私が以前関わった会社でも、毎年のように「次世代リーダー育成研修」が実施されていました。 しかし、話を聞いていくと、参加者の声はこうでした。

「内容は勉強にはなるんですが、現場でどう使うかが分からないまま戻ってきてしまって。」

そこで、経営メンバーにあえて聞きました。

「この研修で、“何が変われば成功だと言えますか?」

少し沈黙のあと、社長がこう答えました。

「実は、新規事業の立ち上げを担えるリーダーが2〜3人出てくるといいなと思っていました。」

この一言が出て初めて、「じゃあ、研修の優先順位は“新規事業を回せる人を増やすこと”なんですね」と腹落ちしました。具体的なゴールが見えるかどうかで、研修の中身もメッセージも180度変わってきます。

【よくある失敗】

  • 「人材育成が大事」というスローガンで止まり、具体的なゴールがない

  • 研修後の行動変容や事業へのインパクトが測られていない

【ここでの一歩】

  • 「今年の人材育成は、何を変えられたら成功か?」を、1〜2文で言語化する

  • そのゴールに直結する“役割”を特定し、「誰の何を育てるか」をセットで決める

  • 経営の言葉で語れる成功イメージを、人事と経営で共有しておく

原因2|階層別研修に頼りすぎて、“本当に育てたい層”がぼやける

よくあるのが、こんな構成です。

  • 新入社員研修

  • 若手社員研修(入社3年目)

  • 中堅社員研修(入社5〜10年目)

  • 管理職研修

カタログとしては分かりやすい。 でも、いざ現場を見ると、

  • 同じ「中堅」でも、役割も得意・不得意も全然違う

  • 管理職といっても、「プレイング8割+マネジメント2割」の人と、「マネジメントが主」の人が混在している

実は、階層だけで切ると、「誰に何を求めているのか」がふわっとしたままになります。

現場でよく聞くのが、この手の声です。

人事:「今年は中堅社員研修を強化します。」 現場:「中堅って、具体的に誰まで入るんでしょう?」

私がある企業で育成計画の見直しを手伝ったとき、「階層別」ではなく、「役割別」で整理し直しました。

  • “案件を任されるリーダー候補”

  • “1〜2名を既に見ている小さなチームリーダー”

  • “部門の戦略を考え始めるマネージャー”

この3つに分け、

  • それぞれに求める成果

  • 不足しているスキル・行動

を洗い出していった結果、「今年は“小さなチームリーダー”に絞ろう」という優先順位が自然と浮かびました。階層という抽象的な切り口を、役割という具体的な切り口に変えるだけで、育成の解像度は一気に上がります。

【よくある失敗】

  • 「階層別」の枠に人を入れて、育成の中身がコピペになる

  • “役割の変化”に合わせた育成が追いついていない

【ここでの一歩】

  • 「今年、育てないと事業が止まる層はどこか?」を、役割ベースで考える

  • 「役割の移行点(プレイヤー→リーダー、リーダー→マネージャー)」に優先的にリソースを投下する

  • 役割の定義は、現場の声を取り入れて言語化する

原因3|“緊急の課題”と“重要な育成テーマ”がごちゃ混ぜになっている

人材育成の話をすると、現場からはさまざまな要望が出てきます。

  • 「もっとロジカルシンキングが必要だ。」

  • 「タイムマネジメントの研修をしてほしい。」

  • 「最近の若手は、ビジネスマナーが…。」

どれも分かります。 ただ、全部に応えようとすると、

  • 毎月何かしらの研修がある

  • 参加した本人も、どれが重要だったか分からない

  • マネージャーは、「研修ばかりで現場の時間が削られる」と感じる

私自身、「これ以上研修を増やしたら、現場の反発が強くなるだろうな」と感じた会社で、一度「育成ニーズの棚卸し」をやりました。

  • 人事・現場リーダー・経営から、「必要だと思う育成テーマ」を全部出す

  • テーマごとに、「緊急度」と「事業へのインパクト」を3段階で評価する

  • 今期やるもの、来期以降に回すものを分ける

その場で、ある部長がぽつりと言いました。

「実は、今の一番のボトルネックは“マネージャーの1on1スキル”だと気づきました。 ここが弱いから、若手の育成も評価の納得感も、全部そこそこになっていたと。」

この一言で、「今期はマネージャーの育成に集中しよう」という方向が固まりました。全てを並行で走らせるより、本当のボトルネックを一つ見極める方が、結果として組織全体に効きます。

【よくある失敗】

  • 現場からの要望を“全部やる”方向で考えてしまう

  • 「やる研修」を決めても、「やらない研修」が決まっていない

【ここでの一歩】

  • 育成テーマを「緊急度×事業インパクト」で整理し、今期は3つまでに絞り込む

  • 「今年はここに集中するから、他は来期以降」と敢えて宣言する

  • やらない研修を決めることも、人材育成の重要な意思決定として扱う

人材育成の優先順位を決める3ステップ

ステップ1|事業戦略から「必要な力」を逆算する

人材育成の優先順位は、まず“事業の方向性”から決めます。

【問いの例】

  • 今後1〜3年で、事業として「何を伸ばしたいか」「何を守りたいか」

  • そのために、どんな役割・ポジションの人が、どんな力を持っている必要があるか

例えば、

  • 新規事業を増やしたい:

    • 「企画→検証→改善」を回せるリーダー層の育成が重要

  • 既存事業の粗利を改善したい:

    • 「単価交渉」「原価管理」に強いプレイヤーとマネージャーが必要

  • 離職率を下げたい:

    • 「オンボーディング」「1on1」「キャリア対話」ができるマネージャーが鍵

私が見たある会社では、

  • 「新規顧客の開拓」がスローガンになっていた一方で、

  • 営業現場の多くは「既存顧客の対応」で手一杯

そこで、

  • 「新規開拓を担う“ハンター型”営業」と、

  • 「既存顧客を守る“ファーマー型”営業」

に役割を分け、それぞれに求めるスキルを定義しました。

そのうえで、

今期はハンター型の育成にリソースを集中する

という方針が決まり、人材育成の優先順位も明確になりました。事業戦略と育成計画を地続きにすることで、研修への投資が“事業投資”として位置づけられるようになります。

【行動のポイント】

  • 事業戦略のスライドを見ながら、「人材に求める変化」を箇条書きする

  • そのリストから、「今年必須の3つ」を選ぶ

  • 経営層にも、選んだ3つの理由を共有して合意を取る

ステップ2|“役割別”にターゲットを絞り込む

次に、「誰を育てるか」を具体化します。

おすすめは、「役割」と「移行点」で区切ることです。

【役割の例】

  • 一人で仕事を完結できるプレイヤー

  • 1〜3名をまとめるリーダー

  • 5〜10名+複数案件を見ているマネージャー

  • 部門や事業全体を見ている部門長・部長

【移行点の例】

  • メンバー → リーダーに上がるタイミング

  • リーダー → マネージャーになるタイミング

実は、この“移行点”が最もつまづきやすく、かつ事業インパクトが大きいポイントです。

私自身、「プレイヤーとして優秀だからリーダーにしたものの、マネジメントで苦戦して自信を失ってしまった人」を何人も見てきました。 その多くは、

  • 任せられる範囲の定義

  • フィードバックの仕方

  • 自分の時間の配分

を誰からも教わっていなかった。

そこで、ある会社では、

  • “初めて部下を持つ人”向けのプログラムに優先投資しました

  • 期間は3か月、月1回のワークショップ+1on1同席フィードバック

半年後、その会社では、「リーダーになったあと1年以内に辞める」人が明らかに減りました。役割の移行点を支えるかどうかは、組織のリーダーシップパイプラインを左右する重要な投資ポイントです。

【行動のポイント】

  • 「今年、役割が変わる人」「既に変わったがフォローが足りていない人」を洗い出す

  • その層に絞って、「必要なスキルセット」と「育成の場」を設計する

  • 移行点を経た人を、ロールモデルとして社内で紹介する

ステップ3|“今、一番痛いところ”に1年集中する

最後に、「どこから手をつけるか」を決めます。

ここでは、あえて「感情」も大事な情報とします。

  • 現場の管理職が、一番しんどそうにしているテーマは何か

  • 人事や経営が、「このままだとまずい」と感じているポイントはどこか

  • 社員アンケートや退職面談で、繰り返し出てくるキーワードは何か

私がある企業で感じたのは、「マネージャーの孤立感」でした。

  • 上からは「数字を出せ」と言われ、

  • 下からは「キャリアや働き方の相談」が来る

  • でも、自分のマネジメントは誰にも見てもらえない

そこで、「マネージャーが一番しんどそうなテーマ」に絞って、1年間集中しました。

  • 月1回のマネージャー勉強会(ケーススタディ中心)

  • 1on1のロールプレイとフィードバック

  • マネージャー同士が“本音を話せる場”をつくる

正直なところ、最初は「また仕事が増える」と構えられました。 ただ、3か月を過ぎる頃には、参加者の口からこんな声が出てきました。

「実は、今まで“自分だけができていない”と思っていました。 他のマネージャーも同じ壁に当たっているのを知って、少し肩の力が抜けました。」

“痛みのあるところ”に集中することは、近道に見えて実は王道です。痛みは組織からのSOSであり、そこに応えることが信頼の積み上げにもつながります。

【行動のポイント】

  • 「今、一番痛みが大きいテーマ」を1つ選ぶ

  • そのテーマに関連する役割・層に、1年集中でリソースを配分する

  • 痛みの状況は、四半期ごとに再評価する

よくある質問(FAQ)

Q1:人材育成の予算が限られている場合、何を優先すべきですか?

A1:事業へのインパクトと離職リスクの両方が大きい層(多くはマネージャー層やリーダー層)への投資を優先するのが現実的です。特に“初めて部下を持つ人”は外せません。彼らへの投資は、その下の数名〜十数名のメンバーへの波及効果も生みます。

Q2:新卒・若手とマネージャー、どちらを先に育成すべきですか?

A2:短期的な効果を重視するなら、マネージャー層を優先する方が有効です。マネージャーが変わると、若手やチームへの影響が波及しやすいからです。逆に、マネージャーが変わらないままでは、若手への投資の効果も限定的になります。

Q3:育成テーマは毎年変えるべきでしょうか?

A3:無理に毎年変える必要はありません。同じテーマに2〜3年かけて取り組む方が定着しやすいケースも多いです。ただし、毎年「目的」と「成果指標」の見直しは行いましょう。テーマを継続することと、惰性で続けることは別物です。

Q4:研修とOJT、どちらに力を入れた方がいいですか?

A4:どちらか一方ではなく、「研修で共通言語をつくり、現場でのOJTで定着させる」組み合わせが効果的です。研修だけ、OJTだけでは変化が限定的になりがちです。両者を意識的に接続することで、初めて投資が活きてきます。

Q5:人材育成の効果はどう測ればいいですか?

A5:行動指標(1on1実施率・フィードバック頻度など)と成果指標(売上・粗利・離職率・エンゲージメントなど)の両方を設定し、3〜6か月単位で追うのが現実的です。短期だけで判断せず、複数指標を組み合わせることが大切です。

Q6:全社員向けの研修はやらない方がいいですか?

A6:全社員向けも意味はありますが、「年1回のイベント」に留まりがちです。優先順位としては、「特定の役割に効く育成」を整えたあとに検討する方が効果的なことが多いです。全社員向けは“象徴的な機会”として位置づけ、特定層向けと使い分けるとよいでしょう。

Q7:現場から「忙しくて研修どころじゃない」と言われた場合は?

A7:負荷が高い時期を避ける工夫は必要です。そのうえで、「研修時間を取ることで、今後どの仕事が楽になるか」を具体的に共有すると納得感が上がります。研修は“仕事の負荷を下げるための投資”という側面もあると伝えていきたいところです。

Q8:外部講師と社内講師、どちらが良いでしょうか?

A8:テーマによります。マインドセットや最新知識は外部、社内固有のケースや文化に根ざした部分は社内講師が向いています。両者を組み合わせるのがベストです。社内講師は、研修の場を借りて自身も学び直す機会になるという副次的効果もあります。

Q9:人材育成と評価制度は、どう連動させるべきですか?

A9:育成で求める行動・スキルが評価項目にも反映されていることが重要です。「学んでも評価されない」と感じると、受講意欲は下がります。育成と評価が一直線につながっていることが、社員にとっての納得感を生みます。

まとめ

人材育成の優先順位は、「育成そのものの美しさ」ではなく、「事業のボトルネック」と「組織の痛み」から逆算して決める必要があります。

正直なところ、「全階層・全テーマ」を一度にやろうとすると、どれも中途半端になります。実は、「事業戦略から必要な力を3つに絞る」「役割と移行点でターゲットを特定する」「今一番痛いテーマに1年集中する」という地味な手順が、一番効きます。

まずは、あなたの組織で「この人たちが育てば、事業もチームも一気に楽になる」という層を一つ決め、その層に対して今期やるべき育成テーマを3つまで書き出してみてください。その一歩が、“やることが多すぎる人材育成”から“戦略とつながった人材育成”への転換点になります。

いまのあなたの状況に一番近いのは、「どの層(若手・リーダー・マネージャー)を優先すべきか迷っている」「育成テーマが多すぎて絞り切れない」「事業戦略と育成をどうつなげるか悩んでいる」のどれでしょうか?

コメント


bottom of page